ある業務終わりの事です。 ユージーンはいい酒を仕入れたんだと私を呑みに誘ってくださいました。 彼にしては珍しい事なんです。私のことを避けているようですから…… そつない会話で済むと。その時は思っていました。 「お酒は、強い方なのですか?」 「まぁまぁだな。こいつはちと度数が高けぇらしいから油断は出来ねぇけどよ」 そう仰ってユージーンは…少々心配になるようなペースで飲み始めました。 私も一口ずついただきました。 そうして風味を楽しんでいると……ほら、言ったとおりじゃないですか─ ……ともかく、ユージーンが舌の回らない言葉を話し始めてしまったみたいで。 10分も経たないうちに酔ってしまったようです。 「ヒェスル〜」 「ユージーン、貴方が油断してはいけないと言っていたのに酔うのが早くありませんか?全く……」 「疲れだよ〜疲れ〜」 いつものダウナーな表情は紅潮し、ふやけたように微笑みました。 そうして機嫌が良さそうに語りかけてきます。 「酔ってんのは分かってんだよ〜 分かってんだけどヒェスルなら酒飲んでる醜態晒してもいいんだ」 「そうでしょうか?」 「頼りがいのある相棒だもんな〜?」 ……ユージーンからみて私は年齢が離れているように感じていたでしょうし、頼られているなんて思いもしなかったので、驚いてしまいました。 ああでも、あられもないことを口走るようでは心配なのでその日は解散したんです。 「明日も死ぬんじゃねぇぞ〜」 「ええ」 今思えばユージーンに恋心を抱き始めたのは、信頼されたという初めての経験からだったのだと思います。 ……私は私なりに、彼に優しくするよう心がけてみました。

お酒とは不思議なものです。 私への信頼を告げたなど覚えていらっしゃらないようで、でもやはり少し覚えているんでしょうか? 私が休憩の紅茶を淹れたりするとなんだか気まずそうなのでした。 「ユージーン?最近淹れ方を覚えたらしいですね。嬉しいです」 「ば、馬鹿を言え。俺みたいなおじさんが優雅に紅茶なんて……」 「もしよければ、今日もいかがですか?」 奥ゆかしい表情。愛おしくて、輝いていて。 私の心もあの日から少し変わったのかもしれませんが。 会話が増えるたび、言葉に詰まる回数が増えていること。それでも連携はしっかり取れていること。 髪の毛が少し艶めいたこと。目が合っても逸らしてしまうこと。 そんなあなたを見ていると……あなたもそう変わらない人間なのかもしれません。

「こうやって飲むのは久しぶりだな、束の間の休息ってやつだ」 「……ええ」 彼は私をヒェスルと呼びます。相棒のヒェスル。 「ヒェスルより俺のほうが酔うのが早いのはいただけないよなぁ、覚えてらんねぇしよ」 でも酔っている彼は私を相棒のヒェスルとして接していない気がするのです。 「ユージーン?」 「……なんでもねえさ、好きな人の綺麗な顔を覚えてられねえのが悔しいって事だ」 「好きな…」 「ああ、俺みてぇな奴がな」 きっと、明日になったら忘れるのでしょう。 その気持ちが嘘なのかも分からないのです。 でもその表情が嘘ではないことは分かっています。 今はお酒がないと伝えられなくても、いつか真っ直ぐに伝えてくれる事を密かに楽しみにしていようと、その日思ったんです。

……会社では愛を囁くと照れる乙女がいつも通りの銃をメンテナンスしています。 「ユージーン、おはようございます。今日も素敵ですね」 「お、おま……」 私だけは貴方の気持ちをしっかり覚えていますから。 今度はしっかり伝えてくださいね。